御殿の掛け軸
雀「明治天皇がご休憩、昭憲(しょうけん)皇后がご1泊なさったお部屋が
あるよね。」
鳩「本堂の裏の書院のことだろう。あそこはご門主が来られた時、末寺の
住職等とお会いになる対面所(たいめんじょ)だったんだよ。」
雀「そう、いや部屋のことじゃないんだ。あの床の間に掛かってある軸の
ことなんだ。最近だろ、あの軸今迄なかったと思うが。」
鳩「去年、天理市の梅本良雄(春風)さんが寄付されたんだって。」
雀「春風っていうのは雅号(がごう)だな。」
鳩「そう、何人もお弟子さんのある書家だ。 奥さんの1周忌に永代経懇
志をと言われ、書家だから揮毫(きごう)して戴けたらと頼んだら、
軸を寄付してくれはったそうな。」
雀「奇特(きとく)なお人や。真ん中はえらい難(むずか)しい字やなぁ。」
鳩「法の古体よ。『開法蔵』(ほうぞうをひらく)の3字は三部(さんぶ)経の
1つ 無量寿経(むりょうじゅきょう)の重誓偈(じゅうせいげ)に、
『為衆開法蔵』(しゅうのためにほうぞうをひらく)とあり、『仏の教えは、 すべての人々の為に開かれているよ」ってことなんだ。」
雀「この床に相応しい立派な字やが、言葉も有り難いもんやなぁ。」
鳩「せっかく開いてくれたはんのに、知らん顔ではもったいない。
しっかり聴聞(ちょうもん)せぇよということや。」